食の宝庫山形「庄内地方」へ

訪れた場所:山形(日本)

この夏、二年ぶりに山形を訪れた。前回は蔵王や立石寺周辺など山形県の中央、村山地方を回ったが、今回は海側の庄内地方、鶴岡市や酒田市へ。多彩な食材と食文化に育まれた庄内地方は、「食の都 庄内」を掲げ、ガストロノミーツーリズムにも力を入れている街。長年、食に携わってきた身としては、一度は訪れてみたかった場所でグルメを満喫します。






地元産、旬の岩牡蠣が旨すぎた

小牧、名古屋飛行場でバタバタと乗り継ぎ「おいしい山形空港」に到着です。車を借りて先ずは酒田市「みなと市場」に。旬真っ盛りの岩牡蠣、女鹿と酒田の食べ比べからグルメ旅はスタートです。産卵を控えて身が大きくなり、旨みが凝縮するこの時期が、最も旨いといわれる岩牡蠣。確かにクリーミーで旨みが濃い!美味し過ぎます。

ドラマ「おしん」のロケ地として有名な山居倉庫を見学した後は、本日のお宿「ショウナイホテル スイデンテラス」に。坂茂氏による田んぼの中に浮かぶこのホテル、この季節は青々とした稲穂が綺麗でしたが、黄金に輝く時期も素敵かも。さすがプリッカー賞(建築界のノーベル賞)受賞者ならではの斬新なアイデアが光る建築でした。

理論派シェフの大人気店に

夜は「食の都 庄内」の親善大使、奥田政行シェフのお店へ。著書多数、特に「茹で論」ではグルマン世界料理本大賞(料理本のアカデミー賞)を受賞した有名シェフが、庄内の食材を使った地産地消のイタリアンを提供する大人気店で、なかなか予約が取りづらいお店です。
「アラのカッペリーニ」から始まり、食感がテーマだという「イシナギのカルパッチョ」はセロリ、大根、トンブリ、カラスミ、カラッと揚げた春巻きの皮を使い、山形のダシ風に仕上げていて面白い。旬の岩牡蠣はモロヘイヤのケッカソースで。続いて苦味の組み合わせが絶妙な「鮎と茄子」。奥田メソッドによると、苦味と苦味は旨味になるらしい。「外内島胡瓜を使ったフェデリーニ」は香、苦味、辛みのバランスが良く、新鮮な驚きを味わえます。「蒸しキジハタ」は中華風に熱々のガーリックオイルで仕上げ、白髪ネギと七種のハーブ、カリフラワーのムースソースのハーモニーが素晴らしかった。三品目のパスタ「サザエのオレキエッテ」に続き、「庄内豚のグリル」が登場。乾き目に焼きあげ、潤いをプラスするスイカと一緒に味わいます。トッピンされたピスタチオとバジルのアクセントも素敵です。メインの「羊」はさっぱりしてクセがない。実は山形って羊をよく食べる習慣があるせいか食材の魅力を良く引き出せていて旨い。口直しの「リコッタチーズ」はレストランで飼っている山羊のミルクから作られた自家製とのこと。〆はレンズ豆とタイムのコンソメでお茶漬け風に仕上げた「リゾット」。日本人にはホッとする味です。
  超人気シェフのイタリアンは斬新で勉強になったが、イタリアンというよりは理論派料理人による奥田キュイジーヌといった感じ。独自の世界観を作り出すシェフの感性に脱帽です。

羽黒山参籠所で精進料理膳を満喫

せっかく庄内まで来たので出羽三山参りにも挑戦しました。先ずは羽黒山頂までバスで行って腹ごしらえ。宿坊にて山形らしい山菜豊富な精進料理を頂きました。こちら「奥の細道」行脚で出羽三山を訪れた、松尾芭蕉ももてなしたといわれています。
山伏修行の祈祷の場として用いられる「神前の間」にて頂きましたが、山形に来て以来知らない野菜や山菜に出会うことが多く興味深い。おかずは全11品、それにご飯とお味噌汁がつきます。精進料理なので野菜だけですが、これが結構お腹いっぱいになります。それぞれに素材の味が活かされていて心もお腹も満腹になりました。
食後は羽黒山石段詣、いよいよ「生まれかわりの旅」のスタートです。お注連を掛け2446段の石段を下ります。途中雨に降られながら2時間(普通の倍)程掛けてやっと下山。普段の運動不足のせいで既に筋肉痛が半端なかった。
翌日から現在を象徴する羽黒山に続き、過去の月山、未来の湯殿山へも二日掛けて無事参拝し、三山詣は無事終了となりましたが、こんなにきつい思いをしたのは生まれて初めて。生まれ変わるどころか、しばらくは全身が痛く死んだように過ごしました。

地域固有の食文化の継承が重要

同じ県でありながら山側と海側で全く違う食文化を持つ山形、今回はその魅力を満喫した素敵な旅となりました。山、里、海からなる豊かな食材の宝庫であり、50種類以上が継承されているといわれる固有の在来作物の数々、山岳信仰や伝統芸能と深く関わっている行事食や郷土料理などの食文化、さすがユネスコ食文化創造都市に認定された街だけのことはありますね。
食はその土地の風土や歴史、生活様式と深く関わりあいながら形づくられるその土地ならではなの固有の魅力です。地方創生には、そんな食文化をずっと残していくことが大切だと再認識しました。

written by Nob2

20代からホテル、飲食サービス業に従事、福岡市のホテルイルパラッツォ、北九州市の門司港ホテル、札幌市のジャスマックプラザホテルなどの経営に携わる。2006年、ワールド・グルメ・バイキング宮崎山形屋店をオープンさせ話題に。2019年、全事業を売却しフリーのコンサルタントに。様々な国や地方の食文化を学びながら、モットーである、サービス業を通して「街を元気に、街の暮らしを豊かに」するを実践中。

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