北緯69度、ノルウェー食べ歩き

訪れた場所:ノルウェー

▲トロムソの中心街

 21時30分、日本を出発。今回の目的地はノルウェー北部、北極圏に広がるラップランド地方に位置する街・トロムソだ。ラップランドとは、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアにまたがる北極圏一帯を指し、先住民サーミの文化と、厳しくも美しい自然が今も息づく土地です。まずは香港まで約3時間45分。4時間のトランジットの合間に、懐かしい鏞記酒家(ヨンキーレストラン)のフライングダックで夕食をとり、フランクフルト行きに備えます。還暦の身には正直こたえる行程ですが、歳を重ねればなおさら難しくなるはず。元気なうちに、行けるところには行っておきたい。フランクフルト、ヘルシンキと乗り継ぎ、時差に振り回されながら、最後はプロペラ機でさらに北へ。日本を出てから約30時間、ようやくトロムソに到着しました。
 人口8万弱のこの小さな街には、世界最北の総合大学があり、映画祭や音楽祭も開かれる北極圏の文化都市だ。人口の1割以上が学生という活気も、「北のパリ」と呼ばれる所以なのでしょう。人口10万人以下の地方都市には、街のあり方を考えるヒントが詰まっている気がします。さて、この街ではどんなグルメが待っているのか、ワクワクです。

贅沢に!北極圏の鯨ステーキ

 北極圏とは北緯66度33分以北の地域を指します。そのラインの上にあるホテル「The Dock 69°39 by Scandic」にチェックイン。緯度をそのまま名に冠した、いかにも北極圏らしい宿だ。荷物を置くと、さっそくお目当てのレストラン「Arctandria」へ向かう。目的は鯨料理です。

▲The Dock 69°39 by Scandic 外観

▲The Dock 69°39 by Scandic 入口

▲Arctandria外観

▲キングクラブ

 前菜に頼んだキングクラブは、茹で冷凍したものをグリルしたと思われる一皿。残念ながら身離れは今ひとつで、塩味もかなり強め。身もやや痩せており、値段を考えると期待には届かない。さすが北欧一、物価が高いといわれるノルウェーです。

▲鯨のステーキ

 気を取り直してメインの鯨料理へ。こちらは悪くない。隣の席のお客さんも同じものを食べていて、遠目にはステーキだと思っていたが、同じ皿が運ばれてきて驚きました。これが鯨なのか。肉質は牛の赤身に近く、柔らかい。やや濃いめのソースがよく合う。寒い土地柄か、全体的に味付けは濃いめで輪郭がはっきりしている。もう一段抑えれば、より洗練されそうだが、これはこれで土地の個性なのだろう。
 疲れもあり、早めに退散。北極圏の夜気を感じながら、ぶらぶらと散歩してホテルへ戻る。思ったほどではないが、やはり寒い。

初のトナカイ料理に舌鼓

▲マイクロブルワリー

 翌日は、2015年まで世界最北端のビール醸造所として知られたマックビールの見学ツアーへ。現在、製造拠点は2012年に郊外へ移転しているため、ここでは仕込みは行われていないが、当時の面影を残す一部施設を見学することができます。
 ツアーは三部構成。まずは創業家であるマックファミリーの歴史を紹介するムービーから始まり、続いて元発酵室にて、現在の企業としての取り組みについて話を聞きました。ノルウェー第3位のビールメーカーとして、容器のリユースやリサイクル、物流改善によるCO₂削減、水資源の再利用など、環境への姿勢は実に真摯だ。最後は2階のマイクロブルワリーへ。ここでは小規模ながら実際にビールが造られており、併設されている1928年創業、トロムソ最古のパブ「Ølhallen(ウルハーレン)」では、実験的に造られた50種類以上のビールを楽しむことができる。醸造中は音楽を聴かせているそうで、室内にはレコードやドラムセットが並んでいた。音楽との直接的な関係はないらしいが、タンクにはさまざまなアーティストのイラストが描かれ、それぞれニックネームが付いているという。約1時間のツアーだったが、内容は濃く、かなり楽しめました。

▲Ølhallen(ウルハーレン)内観

▲イラストの描かれたタンク

▲ムール貝のワイン蒸し

 ラップランド二日目のディナーは、トナカイのステーキを目当てに人気店「Bardus Bistro」へ。予約は21時からしか取れず、評判の高さがうかがえる。スターターは、秋から冬に旬を迎えるムール貝。今回の北ヨーロッパの旅で、一番美味しかったと言っていい一皿でした。

▲トナカイのステーキ

 メインはトナカイのステーキ。ジロール茸の香りと赤ワインを合わせた、クリーミーでマイルドなシャントレルソースが添えられている。昨夜の鯨に続き、赤身肉にこのタイプのソースを合わせるのが、どうやらこちらの定番らしい。トナカイは初体験だったが、癖はまったくなく、驚くほど柔らかい。さっぱりとした肉質に、コクのあるソースがよく絡み、満足度の高い一皿でした。

北欧のシーフフードは絶品

▲カリシュ・ロイロム

 北欧に来たら、やはり外せないのがシーフード。この日は評判のレストラン「Fiskekompaniet(フィスケコンパ)」へ向かいました。狙いは、スウェーデン北部・バルト海のボトニア湾群島で獲れる小型のサケ科魚、vendaceの卵「カリシュ・ロイロム」です。「カリシュのキャビア」とも呼ばれ、EUの原産地呼称保護(PDO)を持つ数少ないスウェーデン産食材のひとつ。王室の晩餐会やノーベル賞の祝宴でも供されるというから、これは試さないわけにはいかない。
食べ方はシンプルで、薄くバターを塗ったパンに、魚卵、サワークリーム、玉ねぎのスライス、ディルをのせ、すべてまとめて頬張る。ウエイターに教わった通りに試してみると、食感はタラコに近く、味わいは驚くほど淡白。単体だと控えめだが、すべてを一緒に味わうことで、ようやく全体がひとつにまとまる。とはいえ、個人的にはキャビア派かもしれない。

▲リンゲンレイカートとキングクラブ

 続いて、店内のほぼ全員が注文していた「Lyngenreker(リンゲンレカー)」、天然のホッコクアカエビも。ノルウェー北部のリンゲンフィヨルドで獲れるこのエビは、氷のように冷たい澄んだ海で育つため、独特の甘みとほどよい塩味が特徴とされている。確かにエビ特有の臭みは皆無で、小ぶりながら旨みはしっかり。ただ、やはり塩味は強めだ。どうやらこのあたりでは、しっかりした味付けが好まれるらしい。

 北欧の食文化を調べてみると、素朴で骨太な料理が多く、「これぞ」という一皿に出会うのは意外と難しい。その中で、この二品はわざわざ食べに行く価値のある、印象に残る存在でした。

思った以上に素敵な街

 北極圏の街トロムソは、過酷さよりも人の営みが身近に感じられる場所でした。学生の多い街の活気や、環境への配慮を重ねるビール醸造所からも、この地が今を生きる都市であることが伝わってきます。
 鯨やトナカイ、冷たい海のエビや魚卵は、派手さはないが、この土地の自然と暮らしをそのまま映した味わいでした。北欧の食は、背景を知るほどに静かに心に残ります。トロムソでの食体験は、北極圏の価値観に触れる良い思い出となりました。

written by Nob2

20代からホテル、飲食サービス業に従事、福岡市のホテルイルパラッツォ、北九州市の門司港ホテル、札幌市のジャスマックプラザホテルなどの経営に携わる。2006年、ワールド・グルメ・バイキング宮崎山形屋店をオープンさせ話題に。2019年、全事業を売却しフリーのコンサルタントに。様々な国や地方の食文化を学びながら、モットーである、サービス業を通して「街を元気に、街の暮らしを豊かに」するを実践中。

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