
街から一時間、世界屈指のワイン産地へ

訪れた場所:ヤラ・バレー(オーストラリア)

▲ワイナリー
その朝は、世界を驚かせた「LUNE」のクロワッサンで始まりました。三種類のクロワッサンとフラットホワイトを楽しんだあと、向かったのはヤラ・バレーです。1838年にビクトリア州で初めてブドウが植えられた歴史ある産地で、現在では多くのワイナリーが点在します。なかでもピノ・ノワールの銘醸地として知られ、その品質はフランス・ブルゴーニュ地方に匹敵するといわれています。
メルボルン市内から車でわずか一時間ほど。気がつけば、最初の目的地「Coldstream Hills」に到着していました。
Coldstream Hills – 知的な理論家
一軒目は、「Coldstream Hills」。国内外のコンクールで受賞歴を持つ、ヤラ・バレーを代表するブティックワイナリーです。
真っ白なカウンターに座り、ワインを試飲していくと、スタッフが畑や土壌の違いを丁寧に説明してくれました。驚いたのは、カウンターの奥に、それぞれの畑から採取された土が並べられていたことです。土の色も質感も、畑によってまるで違います。その違いが、ワインの個性へとつながっていく。そんな説明を聞きながらグラスを傾けていると、ワイン造りが単なる感覚ではなく、土地を深く読み解く知的な営みなのだと感じました。
派手さはありません。けれど、畑の個性を誠実に伝えようとする姿勢がありました。まるで、知的な理論家のようなワイナリーでした。

▲コールドストリームヒル

▲土が並ぶカウンター
Chandon Australia ─ 王道の華やかさ

▲シャンドン・オーストラリア
二軒目は、「Chandon Australia」。フランスの名門シャンパンメゾン、モエ・エ・シャンドンの海外ブランドだけあって、さすがに華やかです。
ぶどう畑を望む開放的なレストランで、シャルキュトリーやタコのマリネ、ディップをつまみながら、三種類のスパークリングをゆったりと味わいました。実に気持ちのいい、贅沢なランチでした。ふと目をやると、美しいブドウ畑の向こうを野生のカンガルーが跳ね回っています。なんともオーストラリアらしい光景に、思わずテラスへ出てしまいました。
食後にはセラーも案内してもらいました。整然と並ぶボトルや樽。静寂に包まれた空間からは、世界的ブランドを支える確かな積み重ねが感じられます。
どこの国へ行ってもブレない、美しく洗練された世界観。ここはまさに、王道のスターでした。

▲レストラン

▲豪華なランチ

▲カーブ
Yering Station ─ ファンキーな最古参

▲イエーリングステーション
三軒目は、ヴィクトリア州最古、1838年創業のワイナリー「Yering Station」です。
数々の国際的な賞を受賞する名門ですが、試飲スペースは意外なほどポップ。アートに囲まれた空間には、どこか今っぽい空気が漂っています。最古なのに、古びていない。むしろ自由で、少しファンキーです。ただ歴史や伝統にしがみつくのではなく、今を楽しみながら新しいものを取り入れていく。その姿勢を見ていると、京都で耳にした「老舗はいつも新しい」という言葉を思い出しました。
接客もカジュアルで親しみやすく、説明を聞いているだけで楽しくなってきます。白、赤、デザートワインまで、豊富なラインナップをたっぷり楽しみました。
お堅い理論家。王道のスター。そして、ワイン造りを楽しむファンキーな最古参。三軒のワイナリーは驚くほど個性的でした。けれど、その多様性こそが、どこかメルボルンという街そのもののようにも思えました。

▲アートのある試飲スペース

▲マネージャー
一時間先の別世界へ

▲気球からみたメルボルン市内
15時過ぎには、心地よい微酔いとともに市内へ戻りました。朝9時過ぎにメルボルン市内を出発し、午後3時過ぎには戻って来られる。これだけ濃厚な体験をしてなお、まだ一日の半分が残っている。そんな贅沢さも、この街の魅力なのかもしれません。
ホテルで一休みしたあと、夕方にはByrdiで一杯ひっかけ、そのままFarmer’s Daughtersへ向かいました。わずか数時間前まで広大なブドウ畑の中にいたのに、気がつけばまた街の喧騒の中に戻っています。
朝はLUNEのクロワッサン。昼はヤラ・バレーのワイナリー。そして夜は、再びメルボルンの食卓へ。そんな一日が、ごく自然に成り立ってしまう。
コーヒー文化も、イギリスの伝統も、移民たちが持ち込んだ多彩な食文化も、世界の美食家を魅了するファインダイニングも、そしてワインもそうでした。みんな違う。それでいて、お互いを否定せず、それぞれが自分らしさを楽しんでいる。
だからこそ、この街は、これほど豊かな食文化を育むことができたのかもしれません。
written by Nob2
20代からホテル、飲食サービス業に従事、福岡市のホテルイルパラッツォ、北九州市の門司港ホテル、札幌市のジャスマックプラザホテルなどの経営に携わる。2006年、ワールド・グルメ・バイキング宮崎山形屋店をオープンさせ話題に。2019年、全事業を売却しフリーのコンサルタントに。様々な国や地方の食文化を学びながら、モットーである、サービス業を通して「街を元気に、街の暮らしを豊かに」するを実践中。



