鏡山を望む一軒家で

訪れた場所:唐津市(佐賀県)

 唐津は、福岡市内から車で一時間ほど。地下鉄とつながる電車でも気軽に訪れることができます。以前は頻繁に通っていましたが、近頃はすっかりご無沙汰していました。そんな街へ、久しぶりに足を運ぶことになりました。

mine – 新たな門出

▲広い玄関ホール

 フジテレビのドキュメント番組「セブンルール」でも紹介された、旅する食空間演出家・大塚瞳さん。福岡・大名の人気店「台所ようは」を手がける彼女に見込まれ、唐津の系列店の立ち上げを任された料理人が、この春、満を持して自身の店を開きました。新たな門出と聞き、お祝いを兼ねて訪れることにしました。
 近隣への配慮から住所は非公表ですが、最寄り駅から徒歩五分ほど。住宅街にひっそりと佇む一軒家です。

 玄関でスリッパに履き替え、廊下を進むと、大きな窓の向こうには鏡山の緑が広がっていました。吹き抜けの開放的な空間に身を置くだけで、時間の流れがゆるやかになっていくようです。

初夏の恵み

 最初に運ばれてきたのは、この週に収穫された赤い野菜を丁寧にすり潰したガスパチョ。店の開店祝いとして、馴染みの漁師から贈られたマグロが添えられ、さらに綺麗なローズ色に火入れされた茹で豚が彩りを添えています。初夏らしい爽やかな味わいに、自然と気持ちもほどけていきます。

 続く朝採れとうもろこしの冷たい茶碗蒸しは、生ならではのシャキシャキした食感と甘みが楽しく、とろりとした口当たりとの対比も印象的でした。そして、以前から大好きだった鮎の春巻き。ふっくらと仕上げた鮎を丸ごと包み、胡瓜とクミンを効かせた茄子を添えた一皿です。鮎のほろ苦さと野菜の香りが心地よく重なり、思わず笑みがこぼれます。

 ふと目を落とすと、料理を引き立てる器もまた実に美しいものでした。

▲ガスパチョ

▲冷たい茶碗蒸し

▲鮎の春巻き

酒と器

 「これ、岡先生の作品ですね。」そう声を掛けると、店主は嬉しそうに頷きました。近頃ますます入手が難しくなっている天平窯・岡晋吾さんの器。料理だけでなく器への想いを聞いているうちに、自然と会話も弾みます。

 合わせた酒は、大好きな鹿児島・いちき串木野市「大和桜」の限定酒「747」。747本のみ造られた希少な一本で、甕で三年間熟成された、甘く深い香りが印象的な焼酎です。酒器には、唐津焼・隆太窯の中里健太さんによる焼き締めのカップ。土味を感じる素朴な風合いが、大和桜の味わいによく寄り添っていました。

 ゆっくりと杯を重ねる頃、ローストビーフが運ばれてきます。オカワカメのぬめりと牛肉の旨味が驚くほどよく合い、酒も自然と進みました。

 料理、器、酒。どれか一つが主役ではなく、それぞれが心地よく調和している。そこにも、この店らしい美意識が息づいていました。

▲焼きしめのぐい呑み

▲ローストビーフ

ヨカ晩

 締めは、アスパラの硬い部分から丁寧に出汁を引いた、アスパラうどん。野菜だけとは思えないほど深い旨味が広がります。最後は、香り豊かなヨモギのアイス。

▲アスパラうどん

▲大和櫻

 食後は、テラスで店主の愛犬と遊びながら、迎えを待ちました。気がつけば、時計は九時を回っています。

 昼間は木漏れ日が差し込んでいた窓の外も、帰る頃には静かな夜の景色へと変わっていました。料理も、器も、酒も、そして窓の向こうに広がる景色までもが心地よく調和する一軒家。久しぶりの唐津で過ごした時間は、ゆっくりと心を満たしてくれる、実に良い夜でした。

written by Nob2

20代からホテル、飲食サービス業に従事、福岡市のホテルイルパラッツォ、北九州市の門司港ホテル、札幌市のジャスマックプラザホテルなどの経営に携わる。2006年、ワールド・グルメ・バイキング宮崎山形屋店をオープンさせ話題に。2019年、全事業を売却しフリーのコンサルタントに。様々な国や地方の食文化を学びながら、モットーである、サービス業を通して「街を元気に、街の暮らしを豊かに」するを実践中。

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